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暗闇の中にボウッと青白い光が浮いていた。
光の中には少年の横顔が映る。
ひょろりと縦に長い体。
長い手足、薄い背中。
金髪、と呼ぶには少し地味な、枯れた印象に脱色された髪は短く、柔らかい風にかすかに揺れている。
少年が握りしめていた液晶画面を耳から放した際ほんの一瞬、眼鏡に人工的な冷たい光が反射し、すぐ、辺りには暗闇が戻った。
棒立ちになった彼、月島が右手のスマートフォンの電源を切ったためだ。
少しでも電池を節約しなければ、ここにはおそらく電気など通っていない。
無造作に鞄の中に薄い液晶を突っ込み、溜息よりももっとずっと深い息を吐いて背後のヒヤリと冷たい壁に背を預ける。
闇が表情を覆っていたけど、自身の自覚からは排除する事の出来ない感覚が寄る眉根の感触に強い不快感を覚えて呻く。
奥歯がぎちぎちと噛み締められてこめかみが奇妙に盛り上がった。
唇を噛みしめていれば、うっかり食いちぎったかもしれない。
月島の表情にはハッキリ、濃い、焦りが刻まれていた。
小高い山の裾へと続く細い車道、その途中に突如ぽっかりと口を開ける暗く小さな短いトンネル。
そこへひとまず身を隠した月島が最も、最初に行ったのは携帯電話の電波を確かめる事だった。
今が異常な状況である事実は、既に飲み込んだ後だった。
知らない教室。知っている顔ぶれ。
目が覚めた瞬間、山口の心配げな顔がすぐ近くにあった事だけがいつも通りとかろうじて言えた以外、そこはまるきりの異世界。
非日常の世界だった。
今はもう懐かしいブラウン管テレビが教卓の上でノイズ音を吐き出し、見慣れているはずの顧問の顔が映し出された。
天井の校内放送用のスピーカーが「今日はちょっと皆さんに殺し合いをしてもらいたいと思います」なんてふざけた事を言いだした瞬間は、周りが、それこそ山口も含めて全員が。
自分を盛大にからかっているのだと、思おうとした。
普段の月島ならそう思う事さえ有り得ない。
だがそう思った方がまだ現実味があったのではないだろうか。
その場の全員でこれから殺し合いをしなければいけない現実を受け入れるよりは。
結局、思い込みにさえ逃げ込めはしなかったのだけど。
震える山口の手が自分のシャツの裾を掴んでいた感覚がまだ残っている気がした。
思っていたよりも軽い破裂音と赤い液体の飛沫が瞼を閉じるたび脳裏でフラッシュバックする。
これは悪い夢だ。
自分に言い聞かせながら忙しい手は止めない。
鞄をまさぐり使い慣れた小さなソレを引っ張り出す。
夜の教室で聞いた話によるとコレは、この“プログラム”は国が施行したものだそうだ。
プログラムの名前はBR法。
まったく新しい斬新な法律なのだとかで、全国から無作為に生徒たちを選び出し、海に囲まれた島や高圧電流などで閉鎖された山に閉じ込め最後の独りになるまで殺し合わせる。
それに一体なんの意味があるのか。
検討もつかなかったが顧問の説明を鵜呑みにするのならコレは国防上の戦闘シミュレーションの一環、なのだそうだ。
戦争を放棄したはずのこの国が、戦闘シミュレーション?
ちゃんちゃらおかしい。
狂ってる。
が、月島たち生徒には真実を確かめるすべなど最初から無かった。
ただ強制されるままにゲームは始まってしまった。
月島が現状、疑っていたのはコレはあの教師の大がかりな犯罪行為なのではないかという事だった。
規模が少々半端ではないため、犯罪の片棒を担いでいるのは彼一人ではないだろう。
どちらにせよ、こんな事を国が施行する可能性よりただの犯罪と考えた方がよっぽど話としては納得出来る。
もし、これが、あの教師独りの、その仲間たちの、性質の悪い犯罪行為なのだとするなら警察への電話一本で全てが解決する可能性だってある。
「・・・・・・。」
厳密に言えば月島は、決して“武田先生”を疑っていたというわけではなかったのだが。
理由はいくつかある。
確かに天井の校内放送用スピーカーから聞こえてきた声は武田のものに聞こえたが、それは武田が目の前で喋って聞かせてくれた言葉では無かったという事。
教卓の上のブラウン管テレビ、そこに映し出された武田の顔はおそらく何かの写真なんかを映したものであって、映像ではあったが常に静止画でありそれが現在の武田の状況を伝えるものとは決して言えなかった事。
もしかしたら、武田は、もう。
思考を振り払うようにスリープ状態だったスマートフォンを叩き起こす。
ぼうっと淡くパスワード画面を浮かび上がらせるソレは、その瞬間までは月島のいわば最後の希望だった。
人工的な灯りに心底からホッとした。
手が、我ながら信じられないがぶるぶると震えていた。
驚いた。
思っていたより自分は動揺しているらしい。
人が目の前でいきなり殺されたのだから、落ち着けという方がむしろ無理な話ではあるのだが、ともかく。
電源が生きていた事と、携帯そのものを取り上げられていなかった事に胸を撫で下ろし、起動させようとして震える指が2度ほどパスワード入力に失敗する。
小さな上部のランプが明滅しているのに気が付いたのはその時だった。
なんのお知らせランプなのか、ウィンドウを開くまでは深く考えもしなかった。
どうせ迷惑な通販のメールかなにかだと軽く考えて。
パスワードを入力されたスマートフォンはとても従順に次なる画面を起動する。
画面に映し出されたアプリに、月島が首を傾げて指を彷徨わせる。
本当ならすぐさま警察への3桁の発信番号をタップしても良かったはずなのだが、どうしても迷う指はそれよりもアプリの起動を優先にさせた。
そして。
黙ったままで、今、月島は焦燥に駆られてジッと考え込んでいる。
電波は、無かった。
3桁の番号も無反応。
電波塔がこの島には無いのか、もしくは、妨害電波でも流されているのか。
とにかく外部への連絡はどうあがいても一切、取れないようにされていた。
インターネットも当然のように繋がらない。
ラインやフェイスブックも例外ではない。
スマートフォンなど今や、情報が詰まっただけの鉄の塊だった。
たったひとつのアプリを除いて、すべての機能はいまや無意味そのもの。
血の気の引いた顔には、焦りの色が濃厚に滲み出ていた。
唇がかすかに震え、それから、一度だけ何かを耐えるようにギュッと双眸が閉ざされる。
細かな震えを抱いていた細長い体は、次に月島が瞳を開く頃にはピタリと静止し冷静さを取り戻していた。
あれほどきつく寄せられていた眉根も今は落ち着いて綺麗な弧を描き、澄ました半眼の上に居座っている。
真一文字だった唇も自然な形へと戻り、表面上だけは普段通りの月島の表情を作り上げていた。
無表情、と呼ぶにはあまりにもハッキリした感情の宿った瞳はこの世の全てを悟り、その上で諦観しているようでさえある。
何かを、決意した表情だった。
月島の手が、それまで開けていなかったデイバックへと伸びる。
ひとりひとつずつ配給された軍用リュックには僅かな食糧と水、その他このゲームに必要な物が入っているが月島の目的はそれではない。
鞄の下の方、ぐいぐいと腕を突き込んで掴み上げる重い鉄の感触にも感情は一切揺らがない。
ごく自然な仕草で取り出されたのはウージーという名のサブマシンガン。
それが月島に与えられた力、武器、だった。
一緒に収納されていた銃弾と、それから説明書を引っ張り出し銃弾を鞄に戻すなりウージーと説明書を片手にトンネルを後にする。
月明りが充分届き、尚且つ身を隠せる場所まで足を運ぶと説明書を端から端まで見落しのないよう読み始めた。
元々、勉強は嫌いな方ではない。
生き残ろう。
月島は、そう決めた。
その為にはしなければならない事があるのも、十二分にわかっている。
月島の顔にはやはり、なんの変化も見られない。
ただ沈黙の形に唇が結ばれ、不意に、眼鏡の表面に黒々とした銃身をちらりと映しだす。
生き残らなければならない。
微かに眼を細めた月島の唇から、細い息がほんの、僅かに零れた。
~・~
「・・・っ、」
今、見た物が信じられなかった。
走り去る国見の後ろ姿を、矢巾は黙って見送る事しか出来なかった。
それは映画の中のワンシーンのようでもあったのに、漂う空気の中の火薬の焼けた匂いが紛れも無い現実を教えてくれる。
懐かしい、幼い頃に花火をした時に嗅いだ、あの匂いにどうしてか似ている気がした。
母親や、父親、親戚の子供たちと一緒になってキャッキャとはしゃいだ記憶が脳裏を掠めてどうしてかなかなか離れていかず、矢巾はずっとその空想に浸っていたい欲求に駆られて悶える。
呼吸を30まで数えた辺りで、完全に国見の背中は見えなくなった。
矢巾が見た光景はチームメイトが他の誰かを撃つ瞬間だった。
見てしまった。
見てはいけないものを。
本当にただの偶然だった。
暗闇の中を闇雲に駆け、駆けて駆けてとにかく隠れられる場所をとうろつきまわっている時だった。
背後から同じく、彷徨いながらも駆けてくる足音を聞き、咄嗟に矢巾は近くの木立の陰へ飛び込んだ。
幸い、走ってきた誰かには見つからずに済んだ。
その相手が誰なのか、暗闇に眼を凝らしてすぐ国見だとわかってホッと息を吐いたのは本当の話。
けれどすぐにはやはり出ていけなかった。
こんなわけのわからない状況に放り込まれて、同じチームの奴に会えるなんてとんでもない幸運だ。
隠れていないでとっとと出て行って、合流してしまえば良かったかもしれない。
しかしそうしてしまいたい衝動にどうしても従えなかったのは国見の切羽詰まった表情のせいだった。
ガチガチに酷く緊張した雰囲気はとても、話し掛けられそうなソレではなかった。
話しかけた途端、逃げてしまうような気さえした。
どうしようどうしようと迷っている内、誰かが国見の近くに立った。
ユニフォームからして音駒高校の生徒だった。
手に、何かチカチカ月明りを反射するものを彼は持っていて、咄嗟に国見を助けなければと思ったりもした。
事実一瞬、両膝は立ち上がろうとして腰は浮きかけたのだ。
危ない!と、叫ぶ為に唇は開き、声を出そうと夏の夜気を吸い込んだ。
しかし叫ぶよりほんの僅かに早く事態は起こってしまっていた。
矢巾が動いたせいで揺れ動いた草木のざわめきはその轟音が掻き消した。
火薬の焼けた匂いを嗅ぎながら、矢巾は冷たくなっていく指を自覚し必死になって息を止めていた。
このまま呼吸をせずに済んだなら、どれほどいいだろうと真剣に考えもしたが。
そう長く持つはずもなく、細く静かに吐き出した息は震えてひゅうと音を漏らした。
ドクドクと肋骨を内側から叩く心臓の音がとてもうるさい。
ついさっき、国見が撃った男子は一向に起き上がろうとしなかった。
どうしよう。
迷う眉根が鋭く寄せられ、キリキリと神経が削られていくのを自覚する。
緊張と恐怖で冷たくなった指先が犬のように加速する呼吸で温められ、自らの喉元でグーとパーをゆるゆる意味も無く繰り返す。
散々迷って、震える膝を叱咤しようやく立ち上がった。
隠れてただぼうっとしていたからと言ってなにかが好転してくれるわけでもない。
とにかくジッとしているのがもういい加減辛くて、よろよろとやっと一歩、足を踏み出す。
こんな時、傍に居てくれたら心強いのにと思う相手はどうしてか及川だったりした。
青葉城西の正セッター。
自分たちの司令塔。
チームの中心ではなく、文字通りのリーダー。
確かこんな話を聞いた事がある。
ボスは椅子に座って命令で部下を動かすが、リーダーは自らがその指針となり己の行動によって周りの原動力となるものなのだと。
今、あの人はどこにいるのだろう?
あの人ならきっと、なにかいい知恵があるに違いない、と無条件で信じ込んでいたと言ってもいい。
立ち上がった際に、やたらと重たいデイバックをうっかり引きずってしまった音が妙に響いた気がしてついついソワソワと辺りを見回してしまう。
誰もいないと確認してやっと、矢巾は隠れていた場所から出て行った。
倒れている音駒の生徒。
彼が怪我をしているなら助けなくてはと思ったのだ。
「あ・・・あのさ、だ、大丈夫?」
倒れたまま動かない男子生徒がどうなってしまったのか、木立の陰に潜んでいた矢巾からはきちんと見て確認する事はまだ出来ていなかった。
血が出ているのは、暗がりでもわかった。
近づくにつれてそれが更にハッキリした認識へと変わる。
「大丈夫・・・?」
もう一度。
試しに声をかけてソロソロと近づくとようやく男子の手がピクリと矢巾の声に反応して動いた。
・・・ぁー・・・・・・。と、どこか聞き取り辛い声はおそらくその男子のものなのだろう。
生きている。
ドッと安堵感を覚えた。
でも、怪我をしている。
ハッと焦る気持ちが、矢巾の足を彼の元へと急がせる。
「ね、君・・・!」
なんの心構えもない。
ただ助けなくてはという衝動に駆られての行動だった。
月明りの下、覗き込む恰好で直視した顔は、赤と白のぐちゃぐちゃした何かだった。
コレは、なんだろう?
一瞬、本当にソレがなんなのかわからなくてそのまま呼吸がヒクリと喉につっかえた。
本来、目があるべき場所にぷっくりと白い球体が剥き出しになって、在る。
その中央に黒い瞳孔が見える。
赤い色が丸い表面をツルリと滑り、毛細血管は数えられそうなほどハッキリと浮いていた。
「・・・・・・ぅぁー」
ポッカリと開いた口らしき部分が赤色に濡れた舌をうごめかせて声を発した。
途端にどこにひっかかっていたのか小さな白い歯がポトリ。
黒い穴のような喉の奥へ落ちていった。
「あ!!ぁ・・・!!あ、ぁ、あ・・・!!」
言葉にはならなかった。
悲鳴が思わず口から零れ落ち、ドスンと豪快に尻もちをつく。
男子生徒の隣りにはおそらく国見が吐いたおぼしき吐瀉物が茶色く広がっていた。
ガクガクと膝が震えて思うように動けない。
腰が抜けてしまったのか、ただ「あぁ、」「あぁ、」と首を振り回し視界をグラグラと回す。
こんな事が、こんな事が果たして本当に現実なのか?
音駒の男子生徒の手がゆるりと宙へ持ち上がり、ガシャンッと砂利を打ち鳴らして落ちる。
鋭い金属音はどうやら、その手に握っている金属製の物から響いているらしい。
目を凝らせば丸い輪っかがふたつ。
手錠だ。
刑事ドラマなんかでたまに見かけるアレ。
彼が握っていたのは武器でもなんでもなかったのだと、改めて知ってゾッとした。
なら、国見は無防備な相手を容赦無く撃ったのだろうか?
ガシャンッ。
また、手が落ちる。
それだけの怪我を負って尚、生きようともがく虚しい足掻きだった。
ジャリリと土を踏む音が聞こえ、ギクリと竦む体が反射的に振り返る。
いつの間に来たのか、地面に倒れる男子生徒と同じユニフォームを着た男子が立っていた。
一目で、日本人ではないとわかった彼の身長はグンと縦に長く、青い眼はどことなく百獣の王の瞳を連想させる。
やけに長い手足が自分とはまるきり別の生き物のようだった。
「・・・柴山?」
獅子が喋った。
ギクリと竦みあがる寸前に、彼の見ているその先のモノに気が付く。
確か、音駒、という学校のバレーボール部員のユニフォームだったソレを纏った獅子は、それと同じユニフォームを着て倒れている男子生徒をジッと食い入るように見下ろしていた。
倒れている生徒、そしてその傍にいた自分。
ラグビーボールのようにデイバックを抱いた矢巾が地を蹴り脱兎のごとく駆け出したのは獅子の腕が動く直前だった。
倒れている男子生徒を見下ろす彼の顔が真っ白な色に表情を失い、次に、抑えきれない憤怒の感情にジワジワと彩られていく瞬間を目の当たりにしたせいだ。
状況を考えればわかる。
今は殺し合いのゲームの真っ最中。
倒れているチームメイト。
その傍にいる、どこの誰とも知らない男子。
誰がやったと思うのが普通か。
考えればわかる。
「ちが・・・違う!俺じゃない!!俺じゃ・・・!!」
そう叫ぶ足は止まらなかった。
悲哀と激情に駆られた獅子の咆哮だけが矢巾の背を追いかけ、拭いきれやしない憎悪を夜の星空へ響かせていた。
~・~
「ぁうっ!?」
ドッと鈍い音と共に大地に叩きつけられた谷地の手足は簡単に柔らかな皮膚を傷つける。
破けた皮膚に容赦なく土や草がめり込んでくる感触を味わい、視界がぐにゃぐにゃと不気味に歪んだ。
「わ、たし、の、」
私のせいだ。
どうしてか谷地はそんな事をブツブツと繰り返して呟いていた。
ずっとずっと前から怖かったのだ。
ある日突然、自分は死ぬ、もしくは死にそうになるのではないかとそんな妄想に駆られていた。
それは誰にも言えない悩み。
言ったところで、笑い飛ばされるのが関の山。
知っていた。
そんなものただの妄想なんだと。
でもそれはある日突然、現実となった。
現実となって、みんなを巻き込んだ。
「私の・・・!!」
谷地の妄想は止まるところを知らなかった。
自分の妄想のせいでみんなが、みんなが、と。
ボタリボタリと頬を滑る熱さが雫となって大地を濡らす。
両手の平と、両膝はすっかりすりむいてしまってジンジンと熱を持つ。
痛い、痛い、お母さん。
ぶるぶる震える両腕の肘から力が抜けた。
土下座をするように蹲った。
もう、だめだ。うごけない。
過呼吸に近い呼吸を繰り返しながら、自分の世界へ閉じこもろうとしていた谷地の、背中に何かがソロリと触れた。
絶叫が思わず喉からほとばしり、まだ自分はこんなに叫べたのかと純粋に驚く。
なにか柔らかくてしょっぱいものが口を塞いで、耳元で数回囁くのを聞くうち谷地の体は絶対的な恐怖からくる硬直を徐々に解いていき、
「仁花ちゃん、」
繰り返される呼びかけにぎょろつく瞳をそちらへ向けた。
口を塞いでいるものは柔らかい手。
優しいぬくもりと、温かな匂い。
黒い髪、黒い瞳、それから口元の色っぽいホクロへ視線を彷徨わせる。
夜闇のせいだろうか?
顔色がまるでプリント用紙みたいに白い。
病的で、とても、美しい。
その顔にかかる眼鏡には暗がりにもハッキリと自分の泣き顔が反射しているのが見えた。
「せ、ん、ぱ・・・、」
慈母のごとき腕に背を抱かれた谷地は、すべての思考を放棄した。
~・~
続
~・~
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